住宅の新築やリノベーションを検討する人のなかには、より快適で環境に優しい家にしたい、と希望される方も少なくありません。
住宅の性能として、特に重視されているのが断熱性です。断熱性を高めることは、冷暖房の効率を向上させることに繋がるため、快適かつ省エネに暮らすためには無視できない要素といえます。
しかし、海外と比較して日本の住宅の断熱性能は低い水準に留まっています。このような状況のなかで、注目を浴びているのが「HEAT20」という断熱性の基準です。
この記事では、HEAT20とはどのような基準なのか、HEAT20をクリアする住宅にはどのようなメリットがあるのか、詳しく紹介します。住宅のリノベーションを検討中の方はぜひ参考にしてください。
もくじ
HEAT20とは「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」の略称です。同時に、この団体が打ち出している民間の断熱基準の名称でもあります。
HEAT20は2020年に発足し、建築会社や部材メーカーなど業界の関連法人・事業者で構成されている任意団体です。環境への負荷を軽減した住宅の開発や、その技術・評価方法などの普及を行っています。
HEAT20の目的は、環境への負荷が低く、かつ住む人にとって安全性の高い高品質な住宅を実現することです。特に、住宅の建築時と日々の生活で生じるエネルギー消費による環境負荷が高い状況を打開するべく、快適で地球にも優しい住宅の普及を目指しています。
その主な方法が、住宅の耐久性と住宅内部のエネルギー性能、断熱性の向上への注力です。具体的には、省エネ性能や住宅の断熱に関わる外皮性能などの研究を継続し、新たな技術の開発と、業界への普及を行っています。
HEAT20は、任意団体が打ち出している民間の基準ですが、業界関係者や消費者から高い関心を集めています。なぜこのように注目されているのでしょうか。HEAT20が注目されている背景には、次の3つのポイントがあります。
HEAT20の特徴の一つが、断熱性能が非常に高い水準にあることです。
実は、日本にはHEAT20のほかにも住宅の断熱性能の基準があります。「H28省エネ基準」「ZEH」はその代表的なものですが、いずれもHEAT20よりも低い水準を採用しています。
寒さの厳しい地域では、断熱性能の高さは暮らしやすさや生活コストに直結するポイントです。そのためこうした高水準の断熱性が高く評価され、良質な住宅を購入したい層から注目されています。
HEAT20が注目を集める理由として、海外と比較した際の日本の断熱性能の低さも要因となっています。
既存の断熱基準の一つとして代表的なものが、国が定める「H28省エネ基準」です。この指標で定めるUA値(住宅の外皮から逃げる熱量の数値)は、米国や欧州各国の水準を大きく下回っています。
国内の厳寒地域で消費されるエネルギー量を考慮すると、基準の引き上げは急務です。こうした背景からも、より国際的な水準に沿ったHEAT20は重要視されています。
HEAT20に適合する住宅では、従来のものより断熱性が向上しています。熱が逃げにくいため、同じ温度に保つ場合でも少ないエネルギー消費で済むのです。
より省エネで快適に暮らすことができるようになるため、実生活におけるメリットも大きく、消費者からも注目を浴びています。
HEAT20認証住宅における具体的なメリットは、次で紹介します。
HEAT20は、単に基準として導入されているだけでなく、日々の暮らしにも大きなメリットがあります。特に生活の快適さに直結する3つの要素を紹介します。
HEAT20認証住宅では、室内の温度を効率的に保つことが可能です。とりわけ、室温だけでなく体感温度を維持できる点はメリットが大きいといえます。
実は、体感温度は、室温のほか、壁や床の温度も大きく関係しています。体感温度は室温だけでなく壁や床の表面温度が影響するため、断熱性が低い家では、壁や床に蓄熱されず、暖房を強くしても肌寒く感じることがあるのはこれが一因です。
HEAT20認証住宅の高い断熱性は、体感温度の向上に役立つため、より快適に暮らすことができます。
HEAT20認証住宅は、家の壁などの外皮の厳しい断熱基準をクリアした住宅です。そのため、室温が下がりにくく、暖房を使用している部屋と、そうでない部屋の温度差が少なくなります。
部屋の間の温度差は、体が気温の変化に耐えられなくなる「ヒートショック」という症状を引き起こす原因となることがあります。とりわけ、入浴中のヒートショックは毎年のように死亡事故に繋がっているため要注意です。
温度差の減少は「温度のバリアフリー」になります。特に気温の変化に敏感な高齢者のいる家族にとっては、不慮の事故のリスクを抑えるためにもメリットが大きいといえます。
結露やカビの発生を抑制できるのもHEAT20認証住宅の強みです。
室内と外の気温差が大きい家は、冬期に窓が結露することも多いです。結露は、窓掃除の手間が増えるだけでなく、湿気によりカビやダニが発生する原因にもなります。
カビやダニはアレルゲンの一種であり、ぜんそくや皮膚炎などアレルギー疾患を引き起こすこともあるため、室内の湿気を抑え、家族が健康的に暮らせるのもHEAT20のメリットのひとつです。
HEAT20認証住宅を選ぶことは、節約にも繋がります。
HEAT20は断熱性の基準が高く、要件を満たした住宅は外気の温度変化の影響を受けにくくなっています。室温が変化しにくい分、エアコンやストーブなどにかかる冷暖房費の節約にも繋がります。
省エネで環境に優しいだけでなく、生活にかかるコストも安く抑えることができます。
HEAT20認証住宅を建てる際のデメリットとしては、建築コストが高くなってしまうことが挙げられます。
高い水準の断熱性能が要求されるため、高い施工技術が必要であり、その分建築コストも高くなります。ただし、前述のとおりHEAT20認証住宅は断熱性能が高いため、建築後の電気代など光熱費の削減が見込めます。
長期的な観点では、HEAT20認証住宅にしたほうが総合的な費用では安くなるケースもあります。
どの程度の断熱性能にするかは、建築会社やリノベーションを依頼する会社に相談・確認してみるのをおすすめします。
HEAT20では、目標とする断熱性能を実現するため、以下の3つの指標を利用しています。
それぞれ詳細をみてみましょう。
HEAT20における室温の指標は、以下の二つの基準で評価します。
【室温評価における基準】
暖房期最低室温 | 冬期における最低室温の基準 |
15度未満の割合 | 住宅内部で15度を下回る時間・面積の割合 |
※地域とグレードによって条件や比率は異なります。
最低室温を高くすることができると、暖房を入れている部屋と暖房を入れていない部屋の温度差が大きいことで発生する「ヒートショック」のリスクを減らすことができます。
HEAT20の省エネルギーの指標は、平成28年省エネ基準からどの程度エネルギーの消費を削減できるかが要件となっています。指標を満たすことで、冷暖房効率の改善・冷暖房費の節約が見込めます。
【省エネルギー評価における基準】
平成28年省エネ基準からの削減率 | 既存の省エネルギー基準住宅に対するエネルギー削減比率の指標 |
平成28年省エネ基準における間歇暖房時の暖房負荷に対する全館連続暖房としたときの暖房負荷削減率 | 既存の省エネルギー基準住宅で断続的に暖房を使用した場合と、対象の住宅で全館暖房を使用した際のエネルギー削減率の比較。 ※全館空調の導入を検討する際の指標 |
※地域とグレードによって条件や比率は異なります。
UA値(外皮平均熱貫流率)とは、家から熱がどのくらい逃げやすいかを数値で表したものです。住宅の壁や屋根、窓などから失われる熱の総量を、住宅の外皮の総面積で割って計算します。
UA値が低いほど、家から熱が逃げにくくなるため、断熱性能が高くなります。UA値を下げることで、先の室温や省エネルギーの観点でも好影響があります。
前述したように、HEAT20の基準は地域の区分とグレードによって異なります。では、具体的にどのように分類されているのでしょうか。
HEAT20の地域区分では、日本全国を1・2地域から7地域の6つのグループに分けて、それぞれ異なる基準を定めています。
【HEAT20の地域区分と代表都市】
1・2地域 | 北海道札幌市 |
3地域 | 岩手県盛岡市 |
4地域 | 長野県松本市 |
5地域 | 栃木県宇都宮市 |
6地域 | 東京都 |
7地域 | 鹿児島県 |
なお、同じ都道府県でも市によって異なる地域区分に分類されることもあるため注意が必要です。
HEAT20のグレードはG1からG3までの3段階が設けられています。そのなかで、G1がもっとも低い基準のグレードです。
【G1グレードの室温の基準】
1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
---|---|---|---|---|---|---|
最低室温 | おおむね13度を下回らない | おおむね10度を下回らない | ||||
15度未満の面積の割合 | 約3% | 約15% | 約20% | 約15% |
【G1グレードのUA値の基準】
1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
---|---|---|---|---|---|---|
UA値 | 0.34 | 0.38 | 0.46 | 0.48 | 0.56 | 0.56 |
G2は、3段階のうち2番目に厳しいグレードです。室温およびUA値の基準は次のとおりです。
【G2グレードの室温の基準】
1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
---|---|---|---|---|---|---|
最低室温 | おおむね15度を下回らない | おおむね13度を下回らない | ||||
15度未満の面積の割合 | 約2% | 約8% | 約15% | 約10% |
【G2グレードのUA値の基準】
1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
---|---|---|---|---|---|---|
UA値 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.34 | 0.46 | 0.46 |
G3は、3つの段階のなかでもっとも厳しいグレードです。室温・UA値の基準は次のとおりです。
【G3グレードの室温の基準】
1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
---|---|---|---|---|---|---|
最低室温 | おおむね16度を下回らない | おおむね15度を下回らない | おおむね16度を下回らない | |||
15度未満の面積の割合 | 2%未満 | 約5% | 2%未満 |
【G3グレードのUA値の基準】
1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
---|---|---|---|---|---|---|
UA値 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.23 | 0.26 | 0.26 |
HEAT20以外にも策定されている住宅の基準があります。ここでは、3つの住宅基準を紹介します。
R1住宅エコとは、省エネリノベーション住宅の普及・標準化を目指し、一般社団法人リノベーション協議会が策定した住宅基準です。「適合リノベーション住宅(R住宅)」制度では、基準はUA値(外皮平均熱貫流率)とし、3段階の☆マークで表示しています。【『R1住宅エコ』基準】
R1住宅エコ★★★はHEAT20 G2よりもUA値が低く、断熱性能が高くなっています。そのため、リノベーションの際は、HEAT20ではなく、R1住宅エコ★★★を基準として考えることもあります。
※1 地域区分6地域(東京等)の場合
国土交通省では、住宅の性能表示に関して基準を設けています。2022年度からは、住宅の断熱性能に関して以下の基準が採用されています。
【住宅品確法断熱等性能等級(UA値)】
地域区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
等級2 | 0.72 | 0.72 | 1.21 | 1.47 | 1.67 | 1.67 | 2.35 |
等級3 | 0.54 | 0.54 | 1.04 | 1.25 | 1.54 | 1.54 | 1.81 |
等級4 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 |
等級5 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 |
等級6 | 0.28 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.46 | 0.46 | 0.46 |
等級7 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.26 | 0.26 | 0.26 |
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、住宅の性能向上と創エネ(太陽光パネルなど)の機能を持たせることにより、年間のエネルギー消費量を通算ゼロにする考え方です。
ZEH住宅に関しても国が基準を設けており、UA値については以下の数値が基準となります。
【ZEH住宅に必要な断熱基準(UA値)】
区分 | 1地域 | 2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
UA値 | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 |
平成28年省エネ基準よりは高く、かつHEAT20(G1)よりは低い基準となっています。
HEAT20は、住宅をより快適に温かく保つための高水準な性能基準です。
HEAT20の基準へは、新築の際に適合させるのが一般的ですが、リノベーションによって要件をクリアさせることも可能です。
快適な暮らしを実現させるため、HEAT20の他にも様々な性能基準があり、各基準ともグレードが設定されています。
それぞれに特徴があるので、検討している建築会社やリノベーションを依頼する会社に相談してみるのをおすすめします。
断熱性能について興味がある方は、高機能で快適な暮らしをマンション、自宅のリノベーションを通じて実現させる「エコキューブ」を取り扱っているインテリックスまでお問い合わせください。